土曜日のジルベルト。

コンサートが終わって周りのお客さんたちが、感涙にむせびつつ「もー、◯◯(曲名)のところでこらえきれなくなっちゃったぁ-ん。」と話しているのを見ていて、誰かの本当のファンになるというのはいいことだなあ、とめずらしく微笑ましい気持ちになりわたしも会場をあとにしました。わたしには好きな音楽ボサノヴァ(バ、じゃなくてヴァ)って、格好良さげに答えるお友だちはいませんが、それでも待つかいのある、十分に素敵な演奏だったと思います。おぢいちゃん、じゃなくてボサノヴァの神様は、スーツにネクタイでとぼとぼとステージに現れ、浅いお辞儀のあと何のおしゃべりもなくギター一本で歌い始めました。1曲目は声が出きらず、歌い終わってちょっと荒い息をしながら「ごめんね、息上がっちゃってさ。」みたいな感じでまた頭を下げ、2曲目からは最後までノンストップ。MCは一切なく、時たまギターを乗せた右足と左足をぱたぱた開閉しながら、ものすごい集中力でひたすら歌います。2度のアンコールは、高い集中力というより、リラックスした雰囲気で楽しいから好きなだけ、といった様子でかなりの曲数を聴かせてくれました。自分の中で今日はこれくらい、と感じたところで終了。聴衆がいるとかいないとか、そんなこと神様には関係なし。練習も本番も、彼には関係ないのかもしれません。高齢歌手独特の神業的テクニックと声量のなさの、切ないこと!一音も聞き漏らすまい、とする聴衆との一体感で、会場は素敵な空気に包まれていたのでした。